吃音者にとって、とにかく取引先に訪問するのは至難の業だ。
飛び込み営業などは言語道断だが、顔見知りの担当者を訪問するときでも超えなければいけないハードルがある。
無論、ひとたび担当者に顔を合わせてしまえば問題ないのだが、そこまでの道のりが長いのだ。
その壁というのが企業の受付。
初物に弱い吃音者
吃音者はとにかく初対面や初訪問など「初」に弱い。
面識がないと緊張しまくるのだ。
これは、以前の回顧録で書いたことだが、例えば横浜の超高層ビルに入っているオフィスなどに出向こうものならエレベーターに乗る前からドキドキだ。
冗談じゃなく、いっそエレベーターが止まってくれないかなと思った時もある。
吐きそうになるくらい緊張して受付の女性に声をかけることになるのだが、実は同じ受付でも更に強者がいたのである。
いつもいるはずの担当者が・・・
上記の受付の話は僕が新卒で建設業界にいた時代。20代の頃だ。(若い)
時は十有余年を経て個人事業主として独立したての頃、自分の事業がフルには入っていなかったため、僕はビジネスを教えていただいた師匠の会社を手伝っていた。
グローバル人材育成の会社をやっていて、ある日、横浜市戸塚区の某大企業に外国人講師をアテンドしてきた。
いつもは、食堂が待合室になって、相手方の担当者が居るのだが、その日はいなかった。
そこで初めて担当者を探しに先方のオフィスをうろついていた時のこと、ようやく目当ての部屋が見つかったと思いきや、そこには新たなショックが待ち受けていた。
気合でどうにかなるものではないけれど
そこには内線電話が一つ置かれていたのだ。
そこに受付嬢がいたわけではないので、とっさのプレッシャーはなかったものの、それでもとっさの場合は意外に対処できてしまうもの。
それよりも、無造作に置かれた内線電話が、緊張を助長した。
こんな時は、余計なことを考えてしまうものだ。
担当者が出てくれれば話は早い。
多少吃音が出ても、向こうはわかってくれる。
ところがその門前にある内線電話は無情にも、担当者直通の内線番号は書かれていない。
意を決して内線をダイヤルする。
5つばかりなった後、女性が出た。
僕:「あ、あ、あ、あ、あの、す、す、すいません、I社の結城と申します。Dさんはいらっしゃいますか?」
吃音が出るときってわかるものである。
なので、どもらないように話そうとすると、窒息しそうになってしまうのだ。
その時は、もうエイヤーで勇気を持って話しかけた。
いずれにしても、企業の受付を前にすると実に暗鬱で憂鬱になるのである。