吃音者、つまりどもりグセがある人間にとって、ついてはいけない職というのが表面的にはあると思う。
それはもちろん話すことがメインになる仕事だ。
ところが、僕は他の吃音者と比べて少々特殊なのかもしれないが、昔から意外とバイトも含めてサービス業には従事してきた。
- 新卒で一番最初に就いた建設業での朝礼や挨拶
- 得意先を訪問した時に受付嬢に一声かける時
- 電話での業務全般
これらは本当に吐きそうになるほど苦手だった。
けど、サービス業でマニュアル通りに話たりするのは、どもるのはどもるんだが、死にたい気持ちにはならなかったことを覚えている。
30歳を過ぎた頃にも宿泊業というバリバリのサービス業に従事した。
ところがその時の会社のシステムにやられてしまった。
バイトにおべっかを使わなくてはいけない人事考課制度
泣き言も愚痴も今は言うつもりもない。
でもある宿泊業界にいた頃、その会社の人事システムで社員をバイトが評価するというものがあった。
確かパノラマ評価とかいうネーミングだったと思う。
ちょうどアメリカの大学で、学生が教授を評価するようなものだと思う。
で、半年に一度くらいやるのだが、評価をされるタイミングでSという社員がバイトにおべっかを使い出した。
最近、なぜかバイトが「コーヒーおごってくださいよ~」とか言ってくるので気になった僕は、普通に聞いた。
僕:「え?なんで僕がコーヒーおごるの???」
するとバイトは
バ:「Sさんが最近よくおごってくれるんですよ~」
バイトは人事考課を自分たちがすることを意識していたのだ。
そして、あるタイミングで僕はSに声をかけたんだと思う。
仲が悪いわけではなかったSのひと言で僕らは・・・
僕:「そんなバイトにおべっか使ってまで良い点数取りたいか?」
S:「は?別におべっかなんて使ってねえけど」
僕:「なんか最近モノでバイトを釣ってるらしいじゃん」
S:「何、結城さん、自分がうまくやれないからって(笑)」
そう、Sは先に社員になってはいたが、僕よりも年下だったのだ。
仕事は決して出来るとは言えないタイプ。
でもおかしな方面ではあったが一所懸命やるタイプでもあった。
なので、仕事では迷惑をかけられつつも、それなりに僕とSは仲が悪くはなかったのだ。
しかし、その時はさすがに何度かのやり取りで言い合いになった。
何分くらい話しただろうか・・・
ふとした瞬間に、Sが禁断の言葉を口走った。
S:「だいたいお前にサービス業なんてやる資格あんのかよ?」
僕は、なんとなく吃音の事を言っているのだと気づきはしたが、あえて最後まで言わせたかった。なぜならココロの何処かで吃音者がサービス業なんてやっていてもいいのだろうか?と思ってはいたからだ。
そんなことを思っていたら、ついに彼は言った。
S:「そんなどもってる奴がサービス業で接客してるなんて会社にとっても迷惑なんだよ」
そういった瞬間、彼は目線を下に落とした。
そう、僕に向かってくるんじゃなくて僕から目を背けたたのだ。
その時僕は、
【吃音者は一生ハンディキャップを背負って生きていかなければいけないんだ】
そう思った。
結局、僕だけでなく、彼も暗い気持ちになったんだろう、それからしばらく二人が口を利くことはなかった。
そんな経験をしてきたわけだけど、今はきっぱりと言える。
吃音者であってもサービス業でもなんでも大いに従事すべきだと。
自らの使命を果たし、対価を受け取るのが仕事なのだから。。。