「スミマセン、もしよかったら私達とやりませんか?」
高校3年(男子校)の秋、ちょうど寒くなるかならないかの時に、女子高生(しかも女子校)から声をかけられたセリフである。
海外、特にアジア圏を旅していると町中でも女性から声をかけられることはよくあるが、(ココでは詳しい内容は控える)、日本で全く知らない女性に声をかけられるのはティッシュ配りや、カラオケや居酒屋の勧誘を抜かせば、あとにも先にもこれが最初で最後だった。
とはいえ、この時声をかけられた場所は、まったくの町中ではない。
特に断る理由もなく・・・
僕ら(高校で遊んでいた仲間)の中では、その頃密かにボーリングが流行っていた。
で、しっかりとした記憶はないのだが、その日も3人でボーリングをしていて1ゲーム目が終わった辺だと思う。
突然、見知らぬ女子高生から冒頭のような声をかけられたのだ。
向こうもちょうど3人組。
僕らは一瞬顔を見合わせたが、特に断る理由もなく3人の中で比較的女性の扱いに慣れているKがOKの返事をだした。
知らぬ間にできたペアリングで
元来沈黙が好きじゃなかった僕。
でも初対面でしかも女性だと例のことが気になって言葉を発することができない。
そう、どもりグセだ。
もう一人のOはもちろんどもりグセはないのだが奥手なタイプ。
結局、ゲーム中はKだけが喋っている状況に・・・
OのことはKも諦めていたが、僕は慣れて相手が僕にどもりグセがあることをわかってくれていれば話せるタイプ。
Kは身振り手振りで「(もっと話せよ)」的なことを言ってくるが勇気がでない。
やっとの思いで、少し会話が続きそうな、家の話、通学の話を切り出す。
僕:「ど、ど、ど、どこに住んでるの?」
2ゲームの半ばくらいになると、なんとなくペアリングがされていて、僕は雰囲気でその場のパートナーになった女性に話しかけた。
女:「船橋、千葉の、結城君は?」
来た、これで会話が繋がる。当時、僕は埼玉の片田舎から、片道1時間45分という莫大なエネルギーを使ってはるばる品川区まで通学していた。
それからというものの、僕らのペアは全く家が逆であることをネタに話が切れ間なく続いた。
しばらくするとKが余計なことを言い始めた。
K:「遠距離で大変だけど大丈夫だよ!」
僕とその女性はうつむいた。
そんな恥じらいのある彼女の姿が妙にかわいく見えたのは言うまでもない。
結局、3ゲーム(僕らは先に1ゲームやっているので計4ゲーム)もやることになった。
お会計を終えて、次の約束があるのかないのか、まったりとしている時に悲劇は起こった。
リーダー格的な女子からのひと言。
リーダー女:「再来週文化祭があるんだけど、もし予定がなかったらぜひ遊びに来てほしいな~」
さっきまで浮かれ気分で甲高く響いていたボーリングがピンを倒す音が、急に頭を打ちひしがれるかのような鈍い音に変わって聞こえた。
僕ら3人ココロの中で:(なんだ勧誘かよ)
まあでもそんな美味しい話があるわけない。
確かにKはどこに出してもおかしくない色男ではあったが、Oと僕は見かけは決してカッコいいとはいえない。
何か裏があるのは当たりまえ(笑)
と、40歳を過ぎた今なら冷静に考えられるのだが、当時の僕は騙された気持ちでいっぱいになった。
それでもKは女性の扱いに関しては大人だ。
K:「あ~、ちょっとまだわからないけど出来るだけ行けるようにするよ♪」
などと答えたもんだから、電話番号を交換することに。
その時、僕は男として器量のないことをしでかした。
小さい男
なんと、僕とペアリングを組んでいた子に、ウソの電話番号を教えてしまったのだ。
そのことが発覚したのは文化祭の日。
Kは結局ノコノコと文化祭に出かけて行ったらしいが、その際に僕とペアリングを組んでいた子に「電話番号間違って聞いたみたい」と言われたらしい。
もちろん、その女の子も半分はウソを教えられたと感づいていたのだろうがそうは言わなかったのだ。
Kによると、彼女はまだ僕と連絡を取りたがっていること、本当に残念がっていたことを文化祭の土産として持ってきたくれた。
が、しかし・・・
今さら、彼女の家に電話をかけるわけにもいかない。。。
当時は携帯電話なんてない時代。電話番号というのは当然、家(自宅)の固定電話の番号になる。
彼女は完全に僕の家と信じて電話しているのに違う家。
今思うと、情けない男だったな~と思う。
これを吃音者で女性に対する自信の無さから起こしてしまった事態というには、あまりにも器量の小さい男というべきだろう。
いま思うとそんなんだから、どもりグセの克服に長い年月を要したのだろうと思う。